NPOマネジメントの押さえておきたい7つのポイント
NPOのマネジメントにおいて、一般的な内容に加え、私が組織基盤強化などでNPOの皆さんの伴走役を務めてきた経験から得たものを交え、以下に「NPOのマネジメントとして押さえておきたい7つの視点・ポイント」を整理してみました。
1) ミッション・ビジョンの確立
2) ニーズの把握
3) PDCA力(特に、振り返る力)
4) ファンドレイジング力
5) 組織としてのガバナンス力
6) 発信力・ネットワーク力
7) 社会ならびに類似団体の動向把握
初めの6つは一般的に言われるNPOマネジメント論として、団体・組織の内部にまつわるもので団体の活動に関する視点ですが、そこに7つ目の社会や他団体を見る視点「社会ならびに類似団体の動向把握」を加えてみました。
ミッション・ビジョンの確立
これは団体として、そもそもどんな目的のもとに団体や活動があり(ミッション)、何をめざしているのか(ビジョン)を明文化し、メンバーに共有できる形でつくりましょうということです。「団体の目的は定款に書かれています」「中期ビジョンや中期計画はつくっています」では十分ではなく、メンバーそれぞれが自分の言葉で語れることが重要です。
「あなたの団体は何をしているのですか?」と聞かれた時に、現在の活動のことは説明できるけど、どういう経緯で活動が始まったのか、この先、何を実現しようとしているのかが、なかなか語れない団体や人に出会うこともあります。自分の言葉で、団体やその人が活動を通して実現をめざしている夢をいきいきと語ったり、団体やメンバーの魅力、大事にしていることを紹介できる団体はとても素敵だと思います。
団体や活動が始まった経緯は、その当時から関わっている人がいたり、団体の歴史などをまとめたりした書籍や記念誌がないと、知ることが難しい場合もあるでしょうが、ミッションやビジョンを共有することを工夫している団体は、団体が始まった経緯や、当時の関係者などの「原点」を、スタッフ研修のテーマとして設定して学ぶ場をつくったり、総会の機会に時間をとって共有したり、また、合宿などの非日常的な機会を通して話したりしているところもあります。個人的な意見ですが、総会の機会の活用と合宿の実施はおすすめです。
そうした場をもつことが難しく、日々の活動に忙殺されてしまうことが一般的には多いのかもしれません。ただ、スタッフがいきいきと活動し続けている団体は、団体の原点や、今まで関わってきた先輩の思いと実現しようとしてきたことの上に、現在のメンバーが自身の夢も語りながら何を実現しようとしているかを語る機会をつくっていることが多いと感じます。日々の活動に忙殺されている団体から「スタッフが長続きしない」という相談が意外と多いことと関係もあるかもしれませんね。

ビジョンの定義を「ミッションの達成に向けた3年から5年先の達成している姿」とした場合、当面は何をすべきか分かってやっているが(今年度の事業計画は決まっているが)、2年先、3年先にどこまで達成するかを意識できているかというと、日々の忙しさのためにできていなかったりします。仮にその意識があったとしても、漠然とした目標はあるが、その目標達成のための道筋(つまり具体的に誰が何をいつまでにするか)は決めていない場合もあります。よって、その目標が本当に達成できそうなのかがわからない。
ビジョン(中期的な目標とその実現のための道筋)があると、人を育てることや、今、注力すべき活動とその次に備えておくべき活動の整理ができ、少し広い視点に立って着実に必要なステップを踏みながら進んでいくことができます。ある意味、じっくりと構えて臨むこともでき、余裕も生まれるかもしれません。ビジョンがないと1年単位で活動を考えることになり、その時々の波風に振り回され、疲弊してしまって活動が続かないというケースもあります。
ニーズの把握
これは誰のために活動しているのか、そしてその人の求めていることは何かをきちんと把握できているかということです。よくNPOの活動は「want」と「can」と「needs」の3つの円が重なるところを意識して計画しましょうと言われます。
NPOは、社会課題解決のためとか、こういう社会をめざしてとして活動をしている訳ですが、課題は人と密接に関係していると思います。そうした人との出会いが契機となったり、まさに自分が当事者であることで、活動が始まったりします。自分が当事者であればニーズは明確かもしれませんが、相手がある場合、思い込みだけで活動をしてしまうこともあると思います。
また、難しいことに、ニーズは同じ活動の対象者でも人によって異なったり、時間とともに変化をすることもあり、それを把握できていないというケースもあります。
ここでもいろんな工夫をしている団体があります。ある子ども支援活動を行っているNPOでは、ニーズを把握するために子どもとの日々の会話や観察から把握したことをスタッフ間で話すとともに子ども一人ひとりの記録をまとめて共有したり、子どもの送迎の際にさりげなく保護者と会話をして親の視点からの活動や団体に対するニーズの変化を把握したりしています。

PDCA力
これは、活動の計画を立てて実施し、それを評価して次のアクションに結びつけるPDCA(Plan:計画,Do:行動,Check:評価,Action:改善)サイクルです。仮にPlanが十分でなくても、行動した後のCheckとActionを意識することだけでも大きな違いがあります。活動(行動)をやりっぱなしではなく、必ず振り返る(評価する)ことで組織は前進します。
PDCAがうまく回っている団体の特徴は、話し合うプロセスがしっかりと持てていると思います。例えば、各会議が事業や団体運営のスケジュールに沿って定期的に設定されていて、「このことを相談したり決めたりするのはこの会議」とメンバーに認識されているとうまく進みやすいと思います。会議ではなく活動をしながらや、顔を合わせるのが難しい場合、日報などに書き込み、それを読んだ他のスタッフがそこにコメントするといった形で、常々話し合うプロセスをもっている団体もあります。
小さくこまめにPDCAを回すこともコツだと言われます。加えて、役割分担が適切に行われていることもPDCAを回す上で効果的だと思います。
ファンドレイジング力
ファンドレイジングに取り組むことが、マネジメントの改善につながると言われるくらい重要なポイントです。ファンドレイジングには資金調達に加え、時間の寄付、即ちボランティア参加も含まれます。ボランティアとしての参加は支援の一つの形態であり、各団体の活動への参加方法や支援方法・形態は多様であると思います。
自分たちだけで閉じた活動をせず、いかに仲間やボランティアを増やしていけるか、「いろんな関わり方の仲間づくり」が重要です。その観点からは、協力を仰ぐ「頼める力」や「受援力」を身につけていくことも大切です。
組織としてのガバナンス
そうした組織運営の決まりごとや流れが定款や必要に応じて作成された各種規定に定められ、共有されている「はず」です。法令順守はもちろんのこと、ルールに沿った運営をきちんとすることで世の中からの信頼につながります。そうした組織としての「型」をきちんと身に着け、定期的に確認し見直すことが「組織ガバナンス」の秘訣です。

発信力・ネットワーク力
いわゆる情報発信力です。素敵な団体はホームページが素敵なところもあれば、facebookページが素敵なところもあります。ホームページもfacebookページもないけど、事業報告書はすごく読み応えのあるものを発行している団体もあります。
また、団体の原点や歴史を書籍にまとめている団体や、「白書」という形にまとめている団体も出てきています。団体や事業パンフレットに活動や団体の歴史や担い手、対象者、地域などの切り口からその魅力や特徴、強みがわかるよう工夫している団体もあります。情報発信を自分たちの得意なものや団体ならではの方法でやっているところは「団体の素敵さ」が伝わってきます。
社会ならびに類似団体の動向把握
NPOであれば当然、社会の流れや変化に合わせて活動を変えていったりつくりだしたりしていく視点が必要で、絶えず社会の動きを把握しておく必要があります。
例えばファンドレイジングに関して例にあげると、遺産相続における寄付として「遺贈(いぞう)」に注目が集まっています。遺産をNPOに寄付して活用してほしいと考える人は、40歳以上の男女の約2割いるという調査もあり、最近は「遺贈セミナー」なども開催され出しています。2割の人が関心をもっているということやセミナーがあるという事実を把握できているかどうかで、団体の戦略も変わると思います。
またパソコンのソフトや企業が提供するサービスの中には、NPOであれば無償で使えるサービスもありますが、情報を知らなければその機会を逸してしまうこともよくあることではないでしょうか。
うまく活動している団体は、このような社会動向を必ずチェックしています。また、社会動向だけでなく他団体を意識する、参考にする、ベンチマークするということも重要です。自団体に似た団体や参考にしたい団体をきちんと押さえ、真似したり励みにしたりたりしていくことは、新しい情報をキャッチすることにも繋がります。
以上、NPOマネジメントの7つのポイントが、NPOの皆さんにお役にたつことを願っております。
記事提供:河合将生氏