ソーシャルビジネス事例 NPO法人ママトリエ

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コラム

ソーシャルビジネス事例 NPO法人ママトリエ

母親による母親のためのソーシャルビジネスを大阪の北摂で展開する、NPO法人ママトリエ代表理事の小西美由紀さんにお話を伺いました。

事業を立ち上げられたきっかけ、フォーカスした社会課題

私は広島で里帰り出産したのですが、里帰りを終えて大阪市内の自宅に戻ると、主人は帰りが遅く土日も留守がちで、高層マンションの一室で一人きりで子育てをしていました。初めは家に引きこもっていましたが、子どもが成長するにつれて、子どもの発語が遅いことや、人見知りが激しいことなどが気になるようになりました。

そこで、なんとかして友達を作ろうと思い、行政が開催している“おしゃべり広場”に出かけるようになりました。私のように少し頑張って出かけられるママはいいですが、本当に人見知りの激しいママは、マンションの一室に閉じこもって過ごしているのではないかという気づきが、その頃からありました。

当時、時間があった私は、テレビのニュースを見たり新聞を読んだりしているうちに、“乳幼児虐待”の事件が多いことに気がつきました。私は元々ライターでしたので、それから色々と調べるようになり、乳幼児虐待の加害者の約半数が実母であるということを知って衝撃を受けました。その時ちょうど、テレビ局の有名な女性アナウンサーが育児ノイローゼで自殺したというニュースを見て、この育児問題はかなり大きな社会問題になっていると気づきました。

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そして、妊娠が分かると市から母子手帳をもらうのですが、乳児健診の前に回答する質問の中に「子育てに困難を感じることはありますか?」という項目があるのです。その時、本当にしんどかった私は“はい”の方に〇印をつけたかったのですが、“子育て失格”という烙印を押されそうで〇印を付けられませんでした。その後、“はい”を選んだという友人に聞くと、市から“託児付きのサポート講座”があったと聞き、自分でSOSを発することができないママは、行政の支援から漏れてしまうということに気がつきました。

そして次に、行政の子育て支援について調べましたが、“親子ふれあい遊び”とか“絵本の読み聞かせ”など、殆ど子どもが主役の講座で、母親がひと息ついたり、何かを学んだりできる講座はありませんでした。次第に周囲から“〇〇ちゃん(娘)のママ”と呼ばれるようになり、自己喪失感や社会的孤立感が募る一方でした。

例えば、行政が託児付きで趣味の講座を開催してくれると、同じ趣味や感性をもったママ友ができるので、そういう場があればいいなと思っていました。ただ、子どもを預けてまで何かをするということに、かなり罪悪感を感じていましたので、結局は何もできないまま時が過ぎました。

子どもが幼稚園入るタイミングで、大阪市内から箕面市内に引っ越し、そこで幼稚園のママ友がたくさんできて、話をするうちにみんな同じ思いを抱えていたことを知りました。ママ友の中には、凄いキャリアを持っている方や、出産してからも新しい特技を身に付けようと頑張っている方が多く、その“ママ”という人的資源を活かして、自分が子育てをしながら感じていた問題点を解消できる活動ができるのではないかと考えるようになりました。

ただ、おしゃべりだけをする子育てサークル以上の何かをしたいと考えていました。どんな形がいいかインターネットで調べているうちに、小林立明さんという方のインタビューで「アメリカのNPOの総収入の50%はサービス収入で成り立っている」ということを知りました。そこで、ママのパワーを活かして収益を上げながらNPO活動ができないものかと考えました。

私は元々、フリーペーパーを編集する仕事もしていましたので、まず自分にできることは“フリーペーパーを創刊する”ことだと思い、2012年、みのお市民活動センターから立上げ時の助成金10万円を頂き、子育て中のママ向けのフリーペーパーを発行する活動をスタートさせました。

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団体のミッション、具体的な事業内容

私が味わった「密室育児」を解消することを団体のミッションに、「母親による母親のための子育て支援」をスローガンに掲げて活動しています。最近は多世代で暮らしているママが少なくなり、“育児の伝承”が行われなくなってきているので「当事者同士で支え合っていくしくみを作る」ということが目標です。当事者にこだわるのは、押しつけの支援にならないようにするためです。
 
事業は“子育てフリーペーパー「ママトリエ」”を北摂地域(箕面・池田・豊中・吹田・茨木)限定で2万部を年4回発行しています。編集は私を含め3人が中心となり、アイデア出しや体験取材に協力してくれるメンバーさんを入れると総勢約30名で制作しています。
 
記事の内容は、メンバーが実際に子ども連れで行ってよかったお店や遊び場情報、地域で子育て支援をしている人や場所などです。特に、幼稚園や小児科選びなどのクチコミを集めた記事は好評でした。
 
「ママトリエ」は、幼稚園、保育所などで全園児に一斉配布しているほか、産婦人科や小児科、公共施設、スーパー、薬局などママが足を運ぶ場所に設置しています。印刷費と人件費などを広告料でまかなっていますが、営業もママたちが行い、一冊あたり約10件の広告を掲載しています。

そして、もう一つの事業は本年2106年6月にオープンした“ママコミュニティ・プニカ”です。プニカは“ざくろ”を意味する言葉で、ざくろは金運、子宝運、愛情運など女性の幸運パワーを高めてくれる果実として昔から大切にされてきました。このプニカのビルは3階建てで、ある個人の方から無償でお借りしています。

プニカのリフォーム資金は助成金の43万円しかなく、そのほとんどをトイレのリフォームと吹き抜けを塞ぐ壁の造作などで使い切ってしまったので、一年かけて、床や壁の塗装、クロスの張替えなどをママメンバーが自力で行いました。最低限の家具だけ購入しましたが、厨房機器や家電製品、キッズスペースのマット、おもちゃなどはすべて寄付でいただいたものです。

プニカ1階は、キッズスペース付きのカフェになっています。また、ギャラリースペースもあり、ママたちが手作りしたアクセサリーや育児グッズ、インテリアグッズなど、たくさんの作品を受託販売しています。2階は託児のためのキッズスペース、3階はスクールのスペースがあり、毎月託児付きの講座を開催しています。“スクラップブッキング”“手作り家計簿”“骨盤体操”などママがリフレッシュしたり学んだりできる講座をはじめ、助産師さんとの育児相談、親子でふれあい遊びなど他の子育て支援団体とのコラボ講座など様々です。

ママトリエのフリーパーパー事業は、もともと助成金で始まった事業ですが、最初から助成金は2年間だけと決めており、幸いにして1年目からその目途が立ちました。フリーペーパーが拡がるのに3年くらいはかかると考えていましたが、スタッフの人脈や他の団体とのつながりのおかげで、かなり早いスピードで拡がりました。とにかく、継続して知名度を上げることに集中したことで、箕面・池田版から北摂版になってからも順調です。

プニカでの事業の方も、カフェでパートスタッフを雇用していますが赤字も出さず、今のところ順調です。子供を連れて働ける場として、ママスタッフの雇用をさらに増やしていきたいですね。

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事業の成果について

フリーペーパーは、「箕面市と池田市で知らないママがいないよ」と声をかけていただけるほどの知名度になりました。豊中・茨木・吹田でもどんどん設置・配布スポットを開拓しているところです。積極的に営業をしてないのに広告を頂けるようになったのは大きな成果だと思っています。創刊後すぐ、朝から晩まで誰とも話さずに暮らしているという読者の方から「私と同じように、小さな子どもがいるのに頑張っているママがいることに凄く励まされました」というメールを頂き、フリーペーパーの使命を痛感した次第です。
 
昔、編集ライターをしていた時は、できるだけ多くの人に情報を投じるというのが役割でしたが、今は困っているママ1人にでも情報が届けば、それはそれで充分な成果があると感じています。

現状の課題と考えておられるその対応策

収益事業をしていると、物の1つの価格を設定するにも、収益を上げていくのか、ママが買いやすい利用しやすい価格にするのか、いつも会議で意見が分かれます。プニカの2階の使い方は、基本は講座開催と託児スペースですが、カフェスペースとして使いたいというママさんからの声も多く、これも毎回会議で「カフェとして活用して収益を上げよう」という話になります。そのために、会議では「密室育児を解消する」という団体のミッションの基本に立ち返ろうと伝えています。

フリーペーパーでは、持続可能性をテーマに取り組んでいます。“ママ”は世代交代があります。箕面市にもたくさんの子育てサークルがありますが、設立しては世代交代で自然消滅を繰り返しています。そこで事業型NPO法人にすることで、メンバーのやりがいや生きがいの場となり、子育てを終えても当事者のママをサポートする助け合い育児を実現できると考えています。

設立当初1歳だった息子は6歳になり、私も一緒に立上げてくれたメンバーも乳幼児の頃の大変さを忘れかけてきています。フリーパーパーでは“当事者目線”ということを大切にしてきましたので、北摂各エリアに“未就園児を持つママのサークル”を立ち上げて、月に1回はプニカに集まって頂き、体験取材をしてもらったり、今の悩みや気づきを話し合ってもらっています。

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写真:「みのおママの学校」とのコラボ企画 “じょさんしカフェ”

今後の展開計画や将来の夢

ママコミュニティ・プニカは、現在は“ママのためのスペース”と考えていますが、これからは子育てを終えられたシニア世代や、これから親になる学生さん等、さまざまな世代の方が“子育て”をキーワードに集えるような企画やしくみを作っていきたいと思っています。
 
また、一言で“ママ”と言っても、働いているママや、障がい児をもつママや、結構多いのは家族や自分に病気があるママもいますし、さらには外国人のママもいます。いろんなママに寄り添えるような活動をしていきたいとも思っています。
 
さらには、子育て支援団体は箕面市内にたくさんありますが、皆さん別々のコミュニティで活動しており、その点在する子育て支援活動を一つの包括的支援活動に、このプニカから変えていくというのが、最終的な目標です。「子育てに悩んだときは、プニカに来ればなんとかなる」という場所になればいいなと思っています。

もう一つ、このママトリエの拠点プニカも好評ですが、吹田など他市の方からは少し遠いので、北摂の各エリアの空き家や空き店舗を活用してママコミュニティを作っていけたらとも考えています。

         
                                     

★「ママトリエ」とは、“ママ”と“アトリエ”の造語です
NPO法人ママトリエのホームページ

ママコミュニティ・プニカのホームページ


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ソシオ・プロダクツ 菊地健

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